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                           地球法廷〜紫苑の森からの告白〜

                                                        作: 寺本 泰之
                                 
  3幕3場
    
  出演者
  被告:人間  ダカン バラマツ
  原告:紫苑の森に生きる老木
  弁護士:お坊さん
  検事:ムツゴロウの霊
  被告側証人:メダカ ヤガモ ハスの花
  原告側証人:ライオン  ドリー
  裁判官:閻魔大王
  陪審員:ペット犬 オオカミ カエル ホタル

  1幕1場
  (ブザー)場内暗くなる
  (マイクの声だけで)
  衆縁和合、この世はおかげさまの世界である。
  なに、衆縁和合がわからぬ!そうか・・・では息を1,2分止めてみたまえ・・・・
  どうじゃ、わかったかな。空気が数分なかったら人間は生きていけないんだよ。その空気は植物や水がなければ
  存在しないんだよ。また、植物も水や土や微生物のおかげで存在できるんだ。 
  つまりじゃな。空気も植物も水も土も、人間と同じ命そのものなんじゃ。命が命をささえあって生きておられるんだ
  よ。それが衆縁和合なんだよ。

  さて、この裁判は紫苑の森の樹齢2000年の老木が命尽きるときに、天に向かって人間を告発したんじゃ。
  その声が天に届いて開廷されたのである。
  みなさまのお座りの席は、客席ではありますが陪審員の席でもあるんじゃ。はたまた被告席でもあることをお忘れ
  なく。 
 (幕が上がる)
 判事:地球法廷を開廷する。(木魚を打つ)
     検事は訴状を読みなさい。
 検事:それでは訴状を読み上げます。
     紫苑の森の樹齢2000年、余命いくばくもない老木の私が、森の仲間を代表して申し上げます。
     私の子や孫、子々孫々のためにも、はたまたこれから生まれてくる人間のためにも、人間中心の政治社会
     を辞めて、これ以上我々の生存権を侵さないこととあります。
     あとは本人が自分の口で述べたいと申しておりますので、そのようにお願いいたします。

 判事:原告は証人席へ

 老木:(ヨロヨロ出てくる)宣誓します。私は人間と違って嘘をつきません、じゃなくて嘘をつけませんと誓います。
     2000年も生きてくるといろんなことがわかるんじゃ。この地球の海も山も川も森もみんなみんな人間と同じ
     生き物なんじゃ
。我々も広大な海から雲を通して雨のプレゼントをいただいて、そして森の仲間はみんな
     育っているんじゃ。そのお返しに森の養分をたっぷり含んだおいしいジュースを海さんに川を通してお返しする
     んだよ。それで海にたくさんの生き物たちも生きていけるんだ。みんな一生懸命生きて一生懸命お返しをして
     いくんだ。誰一人我々の仲間は自分のためだけには生きていないんだ。とにかく我々は人間に尽くしてきた。
     昔は人間が魚を捕るために舟になったり、人間が住む家にもなった。寒いときは薪にもなってやった。それな
     のに、人間どもはどうじゃ。自分たちのことばかり考えている。
 弁護士:異義あり。ア〜よろしいかな。あんまり古い話は本件にはなじまないです。いまは舟はスチール、住宅は木造
      もあるが新建材でつくり、寒いときは石油、電気で暖房しているんです。
 老木:じゃがな。そのような化石燃料の製造、廃棄、焼却で空気をどれだけよごしておるのかな。
     その汚した空気をわしら植物がきれいにしとるんじゃ。ゴルフ場とやらのためにわしらの仲間がそうとう犠牲に
     なっとる。
     この狭い日本に2000ヶ所あるというじゃないか。その1ヶ所で農薬、殺虫剤を1年間で4トンも使うと聞くが、
     それがまた河川、海まで汚染しているんじゃぞ。人間は地球のあらゆる生物、環境を犠牲にして自分たちの欲
     望をかなえているんじゃ。それにな、わしの住んでいる紫苑の森は今やもうわしらの仲間の最後の居留地みた
     いなもんだ。
     人間の開発に追われて、各地から多くの生き物が逃げてきた。オオタカもその1人じゃ。ここでみんな静かに
     平和に暮らしていたんだ。ところがどうじゃ今度は我々最後の居留地、この紫苑の森に自然との共生とか言っ
     て、またわしらの仲間をたくさん犠牲にして大イベントの工事をやり始めた。わしは聞きたい。それで何本の木
     を切るのか。どれほどの森の生物を殺すのかってな。
     もういいじゃろう。ゴルフ場、工場、道路、ゴミ捨て場、ダム、リゾート・・・・いっぱい作ってきたじゃろ。
     わしは2000年もの間、人間に、ハルは新緑を見せてやり、夏は日影を作ってやり、秋には紅葉を楽しませて
     やり、そして冬には枯葉となって堆肥まで作ってやったものだ。
     そのわしの最後の願いじゃ。裁判長、どうか人間がもうこれ以上わしらの仲間を犠牲にしないように、人間の
     知能を無くして、今度はわしらにその知能を与えるように切にお願い申し上げますじゃ。
     それがだめなら人間をこの地球から消してくだされ。


 検事:ここで被告のダカンバラマツを喚問したいと思います。
 判事:被告は証人台へ。
 検事:被告は政治家、財界、官僚代表とあるが、つまり三悪代表ということだな。
 弁護士:異義あり。検事は被告の政財官を最初から悪と決め付けています。三悪を取り消してください。
 検事:いやいやこれは私が言っているのではない。人間ども、いや失礼、人間社会において常に新聞などに記載さ
     れている記事から引用しただけです。
 判事:(検事に対して)しかし、わしも下界のことはよく見てきたが、政治に無関心に人たちもたくさんいたから、この人
     たちを含めると四悪ではないかの〜。
 弁護士:裁判長、たいがいにしてください。
 検事:裁判長、ごもっともです。私も本当はそのように四悪と言いたいのですが〜。
     (客席を見る)あちらにおられる方の中に、多分たくさんの方が途中で帰られると困るので、とりあえず三悪と
     いうことで・・・・。
 判事:な〜るほど。わかりました。
 弁護士:裁判長、まじめにやってください。
 判事・検事:(同時に)いたってまじめにやっています!!
 検事:(被告に)何か申し述べることがあるか。
 被告:(沈黙)
 検事:(聴診器で被告の胸に当てる)ウ〜ンなにか騒いどるぞ。何々、環境をダメにしたのはゼネコンだと有権者が
     いっとる。 
     何々ゼネコンは公共事業だから官僚と政治家が悪いといっとる。オッ、政治家いや政治屋だな、なんかどなっ
     ているぞ。わしらを選んだのは有権者だと。
 被告:やめてください。私は何も喋ってはいません。
 検事:(記録係を見て)大丈夫。何も記録はされていません。

 
 弁護士:裁判長。被告はちょっと胸が苦しそうなので被告側の証人を喚問したいと思います。
      ヤガモくん、証人席へ。
      (ヤガモ、出てくる。証人席へ)
 弁護士:ヤガモ君、君は人間に何か言いたいんだよね。
 ヤガモ:はい、私のこの矢を人間は取ってくれました。そしてお医者さんが私を元の元気な体にしてくれました。
      人間は優しい。それが言いたくてここに来ました。
 検事:おまえは馬鹿か。人間が助けてくれたと言うが、おまえに矢を突き刺したのも人間なんだぞ。
 ヤガモ:(口に出して言う)シュン。(うつむく)でも私の言いたいことは、悪い人間もいるけどいい人間もいるって言い
      たいんです。
 判事:検事は証人に何か質問がありますか?
 検事:いや、ありません。

 
 弁護士:もうひとり、被告側の証人を喚問したいと思います。
 判事:誰かね。
 弁護士:メダカです。
 判事:メダカ君、証人席へ。
 弁護士:メダカ君、君の話を聞かせてくれたまえ。
 メダカ:はい、ぼくたちの小川がゴルフ場を造る工事で壊されるとき、近所の子どもに助けられました。その子の
     家の水槽にしばらく住まわせてくれました。そして、どこからか僕の恋人を水槽に連れてきてくれました。そし
     て子どももいっぱいもつことができたんです。夏の終わりにその家の人たちは僕たち家族を、開発の心配の
     ない山奥の川に逃がしてくれたんです。
 弁護士:はい、よかったですね。よくわかりました。
 検事:ウ〜ン、ゴルフ場を誰が造ったかと言いたいが、マアよかろう。
 判事:メダカ君、退席してよろしい。早く山奥の安全な川に帰りなさい。
 検事:裁判長、我々の証人でここに出廷できないのでインターネットで証言が届けられています。ここで読ませて
     もらってよろしいでしょうか。
 判事:よかろう


 
 検事:エ〜、まず動物園のオリの中から動物園の動物を代表してライオンからの証言です。
     「餌はいらん。自由がほしい。アフリカへ帰してくれ。日本の冬は寒い。ここは動物の刑務所か。わしらが
     日本人に何か悪いことでもしたのか。わしらを見たいのなら、アフリカまで来ればいいのだ。人間は自分
     勝手だ。今度はおまえらがオリの中に入って、わしらが見物する番だ。人間の知能を無くして、わしらに
     人間の知能を与えてください。 裁判長殿」とあります。
     もう一通、なになにこれはイギリスのドリーとあるな。羊のドリーか、ウ〜ン、なになに。
     「僕は生まれながらに6歳。人間で言えば30歳。赤ちゃん、子どもの時間がなかったんだ。だから親の愛
     を知らないんだよ。親の愛を知らないこどもは、夜空の星を眺めても、美しく思えないんだ。人間は罪なこと
     をするよ。クローン技術なんかやめてくれ。クローン?でもただでは起きない、なんて貧乏くさいことはやめ
     ろ!怒りを込めて極刑を!」とあります。
 検事:(被告に向かって)被告ダカンバラマツ。このようなドリー君の証言を君はどのように思うかね。
 被告:我々子供の頃は夜空の星を眺めて、実に美しいと思いました。だけど、今の子どもたちは夜空をじっと眺め
     る時間があるのかな〜。ドリーちゃん、イギリスのブレア首相に変わって、ゴメンナサイ。
 弁護士:裁判長、インターネットの証言なんていうのは、この裁判の評決に有効なんでしょうか?
 判事:この法廷はな、人間が作った、権力者に有利な法律の場ではない。わしと陪審員がちゃんと審判するから
     大丈夫じゃ。
     ところで、弁護士さんよ、あんたの持ってる杖は鈴がついているが何だね、それは。
 弁護士:あっ、これでございますね。これは仏の教えのなかに不殺生というのがあります。つまり、生きとし生ける
      ものをむやみに殺してはならぬ、という仏教の五つの戒律の第一義の教えでございます。わたしが歩き
      ますと地面の小さな生き物を踏み殺してしまいます。ですからこの鈴を鳴らして、小さな生き物たちにわ
      たしの足の下敷きにならないように知らせているのです。
 
 判事:なるほどな。それはよい教えじゃな。
     人間の世界には学校の数よりお寺の数のほうが多いと聞くが、その坊主たちは仏の教えを広めていない
     のか。
 弁護士:いまの坊主はダメです。戒名料に松竹梅をつけて、30万円から数百万円もの料金を取るし、ガン封じは
      いくら、受験合格の祈祷がいくら、安産祈願はいくらとメニューを作って料金を取る。もう欲ボケ坊主ばかり
      です。宗教法人かなんかで税金もほとんど払っていないらしい。
 判事:政党の中にも宗教を母体にした政党があるがダメなのか。
 弁護士:確かにあります。しかし、あの政党はまったく信仰心が足りません。信仰心が足りないもんで、振興券なん
      かバラまいてごまかしています。
 
 検事:裁判長、本件とは関係ありません。法廷の秩序と厳粛さを守りましょう。
 判事・弁護士:はい。
 検事:ここで被告の人間を喚問したいと思います。
 判事:被告は証人席へ。
 検事:君たち三悪は、あいや君たち三役は今までやってきた反省はないのか。
     わしらムツゴロウとその仲間も海をせき止められ数え切れないほど、日干しにされ人間に食べてもらうこと
     なく(これは皮肉だぞ)無念の気持ちで死んでいった。あんな何十年もの前の田んぼを増やす計画を、この
     米あまり減反政策のときなぜ実行するか。
 被告:わたしたちは一旦決めた計画は必要であろうとなかろうと実行しなければならないのです。それは私どもの
     人事権をもっているエライ政治屋のみなさんが公共事業を担保にいろんな人から政治献金なり選挙協力を
     してもらっているからです。

 
 検事:なあ〜るほど、そういうからくりなのか。
 被告:また〜。わたしの口からそれを言わせたかったんでしょ。
 検事:実はそうなんだ。しかし、そんなことをやっていたらいくら税金があっても金が足らんじゃろ。
 被告:心配要りません。その点我々官僚と政治家、ア、イヤ政治屋の皆さんは打出の小槌を持っていますから。
 検事:なんじゃ、その打出の小槌とは。
 被告:はい、赤字国債、地方債です。これは何十年も先の税金ですから今の有権者は反対しません。おかげで
     今年度1000兆円も借金ができました。
 検事:しかし、その何十年先には今の子どもたちやまだ生まれてこない子どもたちが税金を負担していくんだろ。
 被告:そうです。
 検事:それではこれからの子どもたちは大変だな。
 被告:まあそうですが、我々は常に選挙権のないものへのツケを回していくというやり方を、ずっとやってきまし
     たから。それに今の子どもたちはお菓子を食べ放題、おもちゃの使い捨て、食事は残してゴミにする・・・
     楽あれば苦ありじゃあないでしょうか。
 検事:ン〜。なんか変な理屈だな〜。待てよ、そうさせているのはおまえたち悪い三役の大人だろ。
 被告:そうです。
 検事:オ、そうか。素直に罪を認めるのか。
 被告:罪を憎んで人を憎まず。どうぞ、人間を無罪にして!
 検事:ダメ!裁判長、今の人間社会は我々の生存権を奪いながら自分たち人間の子どもたちのことに対してあまりに
     無責任。このような動物はこの地上からぜひ抹殺してください。もしくは人間の知能を無くしてください。また、
     人間を一瞬にして大量に殺す核兵器なるものを作り、この地球上で2000回以上も核実験を繰り返し、いまなお
     地球そのものを数回破壊する数の核ミサイルを何千万発も保有しているのです、裁判長。
 判事:ン〜。人間はそのような技術やエネルギーを地球環境に使っていたならばな〜。
     この青い地球は永遠かもな〜。
 検事:裁判長。我々の仲間のネズミさんは人間の病気や命を救うために数え切れないほどの命を動物実験にささげて
     きました。その命の恩人を人間は完全に忘れている。人間に極刑を!
 弁護士:裁判長。被告にも言い分を。
 判事:ドンドン言いたまえ。
 弁護士:(被告へ)さあ、思いのたけをいいなさい。後はこの坊主に任せて。
 被告:なんか変だな、後は坊主に任せるなんて・・・。大体お坊さんが弁護士ってのも変だよな〜。私ども三悪、いや
     三役は一生懸命やってきたつもりです。地球環境の事は学校の試験にも入社試験にも出ませんでした。ただ
     ひたすら大会社に入って金儲けすれば、あんたは偉い、と言われた人生だったんです。(グスン)
     ペットと会社の往復人生だったんです。「どこに男の〜夢がある。」
 判事:ストップ、法廷を侮辱しないで。
 検事:裁判長。我々干潟に住む動物微生物は人間が川へ流した汚水を、海へ流れ込む前にどれだけきれいに浄化
     して海を守っているか・・・・・ああ、それなのに人間どもは、干潟を埋めたり、海に大量の土砂を入れて、飛行
     場を造ろうとしとる。また、森を破壊してまで経済優先社会の大イベントを行なおうとしている。オオタカの家族は
     引っ越し料をもらわず追い立てられたんだ。
 弁護士:裁判長、しかし神戸では30万近い市民が新神戸空港の反対をして、署名をしたんです。
 検事:しかし、その後の選挙で反対派の立候補者はほとんど落選している。つまり人間どもは金儲けを優先したんだ。
     愛知万博も反対派の知事立候補者が負けたんだろ。
                          
                            

 弁護士:裁判長、最後にここで被告側証人、ハスの花を喚問したいと思います。
 判事:証人は証人席へ。証人は嘘偽りのない証言を誓うか。
 ハスの花:はす〜。
 判事:君の出身は東北方面かね。
 弁護士:君は植物でありながらこの被告を弁護する証言をするのかね。
 ハスの花:はい。私にとって人間は命の恩人なのです。2000年もの眠りから私を目覚めさせてくれたのは人間の
        知識と技術なんですもの。人間は自然環境の恩を忘れても、私は人間への恩を忘れません。
        これからわたしの子どもたちが無限の命を授かって花咲けるのです。多分人間は気づかなかっただけ
        なのです。本当に大事なものがなにかってことが。本当はお金で買えるものより、お金で買えないもの
        だって事が・・・・。でも気づいている人たちもいっぱいいることを私は知っています。
 検事:どこにどれだけそんなまともな人間がいると言うんだね、君。証明したまえ。
 ハスの花:・・・・全体から見ればホント少ないけど、でも私は、私はいっぱい知っています。風力や太陽光で発電
       して地球の空気がこれ以上汚れないように一生懸命努力している人たち。また、ボランティアで三悪と
       闘っている市民グループとか。
 検事:そうかも知れんが、もう手遅れなんだよ。これ以上三悪を野放しにしておく時間はないよ。
 ハスの花:そうなの、それなら私も一緒に極刑を与えて!そして人間と一緒に葬って!
        樹齢2000年のおじいさん、私も2000年眠っていたけれどもあなたと歳は一緒よ。人間にチャンスを与えて
        やって。お願いだから今回だけは告訴を取り下げて。

        地球はいま病気なのよ。わからないの。オゾン層にも大きな穴が空いてしまって!海も川も化学物質の
        毒で苦しんでるのよ。わからないの。環境ホルモンって毒をゲイゲイもどしているのに。排気ガス、煤煙
        なんかの二酸化炭素で地球はすごく熱を出しているのに。人間にはそれがわからないんだわ。だから・・
        だから・・・おじいさん、検事さん、裁判長さん。そのことを人間に教えてあげてください。
        そして人間に、私を2000年の眠りから目覚めさせたその力でこの地球、大地の母、みんなの、みんな
        のお母さんの病気を治すんだよって人間に教えてあげて。それができるのはきっと人間なんだわ。
        検事さん、裁判長さん、人間を極刑にしないで。
 判事:以上。陪審員は陪審員室で審理をして、評決をしてください。
    

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 2幕1場
 陪審員室
 ペット犬:まず僕からよろしいですか。僕は人間のおかげで、衣食住には困ることはないんだよ。冬は暖房、夏は冷房
       カロリーいっぱいのペットフード。ルンルン。
 オオカミ:だけど、おまえたちは生活習慣病にかかっているっていうじゃないか。それに去勢されていると聞くぞ。
      そんなことをする人間を擁護するのか、おまえは。
 ペット犬:去勢されてるけど妊娠の心配はないから、思いっきり楽しめれるってこともあるよ。
 オオカミ:でも種の滅亡につながるじゃないかい。
 ペット犬:そうだよな〜(寂しそうに)。でもわれわれの替わりにロボット犬を人間が作ってくれるよ。
 オオカミ:既に作っているよ。ファービーなんておもちゃもいっぱいあるよ。それでも人間を擁護するのか、おまえらは。
 ペット犬:犬は3日飼われたら、その恩を忘れることができない宿命なんだ。
 カエル:アノ〜わしも毎年夏には大勢の仲間を集めてカエルの大合唱を皆々様に披露させてももらっとるんじゃがの。
      毎年集まるメンバーの数は減る一方・・・・。迫力ある大合唱ができなくなってしまった。
      人間が使う農薬や除草剤のせいなんだよ。ミズスマシもゲンゴロウもザリガニもみんな来なくなってしまった。
      自分たちのことしか考えない人間はやっぱり有罪だな。
 ホタル:ぼくらのイルミネーション魅惑の舞も、もうとっくに解散消滅しているよ。今じゃ小学校の子どもたちが水槽で
      飼ってくれてるだけさ。でもさ、夏の初めに汚れた小川に逃がしてくれてるんだけどさ、すぐ死んじゃうんだよ。
      僕らの餌のカワニナがいなくなってね、だからさ。ほんとうはずーっと学校の水槽にいたいんだ。狭くて自由は
      ないけどね。
 カエル:人間はすごく欲張りだよ。お米だって農薬や殺虫剤を使わないで、何割かわしらの友達の虫君たちにやって
      もいいじゃないか。お米が余って倉庫にいっぱいたまっているらしいぞ。その管理・維持費に何千億もお金を
      使ってな。へんな薬を使わないでお米を作っていれば、虫君たちも食べれるのに。そうすれば、わしらの大
      合唱もみなさまにお聞かせできるし、ホタル君のイルミネーション魅惑の舞も盛大にお見せできるのにな〜。
 ホタル:それにさ、人間だって無農薬のお米を食べてれば、きっと変な病気にもならなくて、健康でいられるのに。
      医療費30兆円も使わずにすみんじゃないか。
 カエル:人間の世界は選挙権をいっぱいもってる業界や団体の都合で物事を決めていくんだよ。だから、薬屋さんの
      売上の落ちることはしないよ。わしらにも選挙権があったらな〜。わしも最近めっきり元気がないよ。
      バイアグラでもくれないかな〜
 ホタル:選挙権ないからだめだよ。そのうち僕たちも滅亡していくのかな〜。
 カエル:でも、最後の一匹になると、トキさんみたいに大事にしてくれるぞ。
 ホタル・カエル:淋しい〜。やっぱり人間は欲張りで馬鹿でエゴイストなんだよな〜。
 ホタル:それに最近じゃ〜人間は遺伝子組み換えとやらで農薬いっぱい使っても枯れない、人間だけが食べられる
      大豆とかトウモロコシを作っているらしいぞ。
 カエル:虫も食わない奴っていうけど、人間は虫も食わない大豆やトウモロコシなんか食べるんだね、ホントに大丈夫
      なのかな〜。
 ホタル:おまえも人がいいな〜。人間のことを心配してやっているのか。
 カエル:ウ〜ン、少しな〜。人間は僕らカエルの置物を作って、家の玄関においてくれたんだ。
 ホタル:何だ、それは。
 カエル:ウ〜ン。家族がみんな今日も無事におうちへ「カエル」ってようにね。おまじないなんだけどさ、僕らうれしかった
      んだよね。
 ホタル:でもみんな無事におうちに「カエル」ってのは、人間の家族だけなんだろ。
 カエル:(寂しそうに)多分な。・・・・だけど人間は食べ物を粗末にして残飯の処理に困っているのに、われわれの仲間
      の遺伝子を組み換えてまで食べ物を増産するのかな〜。
 ホタル:そうそう、最初の頃は残飯をブタさんとかにやっていたらしいが、残飯じゃブタさんが早く大きくならないとか言っ
      て残飯はゴミにして、いまじゃ成長ホルモン入りのえさをブタさんにやってるみたいだね。
 カエル:ブタさんもかわいそうだね。早く大きくされてマーケットのトレイの上に並んじゃうんだよね。
 ホタル:人間は欲張りで金儲けしか頭にないんだよ。いっそ人間の遺伝子を組み換えて、人間の大きさを半分くらいに
      したらいいんだ。われわれの仲間の遺伝子を変えなくったってね。
 カエル:アッそうか。そうすれば人間がこの世で欲しいものが全部倍の大きさになるってことだ。
 オオカミ:君たち、わかっちゃいないね。人間がいくら小さくなっても、もっともっとの欲張りもんだからいっしょのことさ。
       お月様の資源もロケットで取りに行く計画もあると聞くぜ。
 カエル:そうか、ダメか。
 オオカミ:でもな〜。人間のもっともっとの欲張りを小さくすれば、きっと世界は平和になるぞ。
 ホタル:しかし、オオカミさんよ。欲望に遺伝子はないからな〜。遺伝子組み換えはできないよな〜。
 カエル・オオカミ・ホタル:やっぱ人間は救いようないか。
 ペット犬:なんとか救ってあげてくれないか〜。
 オオカミ:よし、結論は出た。人間は有罪だ。
 ペット犬:僕はまだ考えてるんだけどな〜。ペット霊園のこともあるし。

 オオカミ:おまえはもういい、ずっと考えてろ。
 ペット犬:はい。

                   被告は有罪で極刑の宣告書を出す
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 3幕1場
 法廷の場
 裁判長は宣告書を読もうとして、原告席を見る。そこに原告はいなくて、その衣装だけが落ちている。よく見ると
 そこにはハスの花と衣装と手紙がある。それを検事が拾い、何だろうといいつつ手紙を広げて読み上げる。
 
 検事:(手紙絵お読み上げる)なになに・・・裁判長、わしはハスの花の話を聞いて考えが変わった。もう一度人間に
     チャンスを与えよう、とな。だからこの告訴は取り下げることにした。わしには告訴取り下げ状を書く力もなかっ
     たが、ハスの花がわしに命をくれたんじゃ。小さな命じゃもんで、取り下げ状を書いたら命が尽きてしまった。
     だからわしと一緒に天国へ行くことになってしもうた。だから後はよろしくな。

     (上からハスの花の声だけが聞こえる。)
 ハスの花:これでわたしは人間に恩返しができたわ。もうみなさんには会えないけど、でも大丈夫。来年の春も、その
        次の春もお池にわたしの分身のピンクの花がいっぱい咲くから、ネ。だからね、ハスの花を見たら、わたし
        の事、少しは思い出してね。きっと私が信じる人たちが地球を救ってくれるわ。わたしはだれが何と言おうと
        人間を信じるわ・・・・・・さようなら。

 判事:(検事と弁護士に向かって)君たち原告の告訴取り下げによってこの審理はなかったことにする。以上、閉廷。
    
     (木魚1つ)

     (幕が下りながら)
 判事:(独り言)ハスの花はお釈迦様の化身じゃったのかな〜。
 

                                  終わり

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