愛知県議会議員選挙用ポスター公営費返還請求事件
訴 状
平成20年5月22日
名古屋地方裁判所 御中
原告 寺本 泰之
豊橋市賀茂町字石城寺4−6
被告 愛知県知事 神田 真秋
愛知県名古屋市中区三の丸3丁目1−2
請求の趣旨
請求の趣旨
1、被告は、平成19年4月に執行された愛知県議選でポスター作成を契約した印刷業者のうち表2に記載した「選挙用ポスター作成の公費負担請求額が上限額の90%を超える印刷業者及び候補者」に対して表2の「返還請求額」欄に記載した各金額(計25,922,103円)及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払うように請求せよ。あるいは神田真秋もしくは愛知県選挙管理委員会委員長水野祐一に対して、不当・違法に支払った合計金額25,922,103円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年5分の割合による金員を愛知県に返還するように請求せよ。
2、訴訟費用は、被告の負担とする。
上記1,2の判決を求める。
請求の原因
第1
当事者について
1.
原告は、愛知県豊橋市賀茂町字石城寺4-6に居住する住民である。
2.
被告は、愛知県知事神田真秋(以下、「被告」という)である。
3.
原告が被告に対して、不当利得返還請求するよう求める相手方は、平成19年執行の愛知県議会議員選挙において選挙公営制度におけるポスター代の公費負担を請求した印刷業者である。
第2
住民監査請求前置と本件提訴について
原告は、平成20年3月31日、愛知県監査委員に住民監査請求(甲第2号証)したが、監査委員は同年4月25日付で却下の決定をし、結果通知(甲第3号証)してきた。
その要点は、本件監査請求が具体性に欠け、地方自治法第242条第2項に規定する要件を欠き、不適法であるので却下する、というものであった。原告はこの監査結果には全く納得できないので、本件提訴する。納得できないとする、監査委員の判断の誤りについて次に述べる。
1、 本来監査委員は地方公共団体の事務の執行を厳しく監視し、住民の利益のために機能すべき機関である。ところが愛知県監査委員は、愛知県が行なった事務事業が地方自治法第2条14項、15項の規定及び地方財政法第4条の1項の趣旨に則って行なわれているかどうかという監査の基本を踏まえることもなく、本件監査請求に内容を審議することなく、具体性にかけるというというだけで機械的に却下の結果を出している。以下2、にそれを証明する。
2、 原告は、本件と内容を同じくする次の@にある平成20年2月4日と同年2月27日の2回に亘って監査請求を愛知県監査委員に対して行っている(甲第4号証)。
@「事実証明書2にあるようにポスター作成費の公費負担上限額の満額の100%を請求している候補者が26人、99.8〜99.9%請求が6人、90.0〜99.7%請求が18人いる。岐阜県山県市では選挙用ポスター作成費の不正請求に対する監査請求が市民団体によって起こされた。これを受けて山県市では、「山県市選挙公営制度における不正請求問題調査委員会」が設置されその報告書が出されている。その報告書によれば、選挙公営の対象枚数135枚(山県市)に対して、ポスター作成費として実際かかった費用は5万円から19万円でしかなかった、と報告している。ある印刷業者は1000枚までは枚数いかんにかかわらず請負額は同じであると、報告書の中で証言している。
これらを考えても、1000枚のポスター作成費の実勢価格は20万円を超えることはない。高く見積もっても愛知県が設定した上限額の50%を超えることはない。50%を超える公費負担請求は過大請求であることは明らかである」として平成20年2月4日は候補者全員の、2月27日は上限の90%以上を作成費公費請求した候補者の印刷業者を調査するように請求した。
監査委員は財務会計の専門スタッフを擁し、調査能力と権限を有しているが、住民には全く調査権限はない。調査権を持たない住民はポスター作成の明細書を手にすることはできない。そういう条件下で、住民サイドでできる精いっぱいの調査をして具体性を持たせた。しかし@の監査結果はいずれも「却下」であった。理由は「請求人の主張は憶測であって、違法性、不当性を客観的かつ具体的に摘示しているとは言えず要件を欠き不適法である」である。
3、しかし、以下の@,Aの判例から上記監査請求は適法である。
@、調査権を持たない住民が監査請求をなすに当たり困難を強いることのないよう、事実証明の要件は緩やかに解釈されるべきであり、監査請求事実の存在を一応推認させるに足れる書面であればたり、監査請求の要旨事実全てを推認させるものである必要はない(神戸地判昭和62・10・2)と
A事実の有無は監査委員の監査によって明らかにされればよい(行政実例昭和23・10・30自発第978号)。
B 上記@,Aより原告が行なった平成20年2月4日と2月27日の監査請求に対する監査委員の「要件に欠けるとして『却下』した」判断は不当だ。
4、原告は平成20年2月4日に選挙用燃料代公費負担についても監査請求を行なった(甲第5号証)。監査請求結果(甲第6号証19監査第351号平成20年3月24日)には、「返還を求めた議員10人のうち9人から返還されており、愛知県の損失がなくなった」という理由から棄却であった。そのうちの返還しなかった中根義一議員は請求内訳書を訂正したので適法であった、としている。中根義一議員は「選挙用自動車の給油量の総量は間違いないが、1日の走行に不安を抱き燃料缶に44.0リットルを給油して燃料缶から不足分を自動車の燃料タンクに供給した」から適切な使用である、と判断している(甲第6号証15ページ)。しかし選挙運動中、もしガソリンがなくなると困るからといって44リットルもガソリン缶に詰めて選挙カーに載せて走るだろうか?普通ガソリンを携行することは消防法で禁止されている。にもかかわらず監査委員は中根義一議員の言い分を確かめることもなく認めている。この燃料代返還の監査請求に対しては受理して調査を行ないながら、本件ポスター作成公費負担については要件に欠ける、として却下するなど、監査委員の判断は整合性がない。
5、4より愛知県監査委員は行政や議員の防波堤の役割しか果たしておらず、監査委員の任務である、地方公共団体の財務及び事業の経営が「最少の経費で最大の効果をあげるように行なわれているか」注意を払わなければならない、とする地方自治法199条3項に則った機能を、愛知県監査委員は全く果たしていないといえる。このずさんな調査から、愛知県監査委員は監査委員たる職責を元来果たす意思のないことは明らかである。監査委員自体が監査委員としての適正さを欠いている。地方自治法に制定されている監査請求制度が愛知県では、住民の利益を守るべく法に則り機能していないので提訴することとした。
第3 本件支出の違法性について
1、 愛知県では「愛知県議会の議員及び愛知県知事の選挙における自動車の使用及びポスターの作成の公営に関する条例(以下「本条例」という)で選挙用ポスター作成費のみを公費で負担することとしている。平成19年度執行の県議選にはこの選挙公営制度の目的自体は、選挙費用の資力に乏しい者も立候補しやすくしようとするもので、必要以上に金をかけていいとするものではない。地域の実情に合った公営制度にすべきである、と総務省も通達している。請求人が印刷業者に選挙用ポスター1000枚分を見積もってもらったところおよそ16万円でした(甲第7号証)。
選挙公営制度がない小坂井町では、候補者は12万円前後で作成しています(甲第8号証)。
ところが、平成19年4月に執行された愛知県議選においては実勢価格とかけ離れた高額な選挙用ポスター作成費公費負担の請求がされている(甲第1号証)。しかし、愛知県選挙管理委員会は前述にある総務省の通達に対して努力をすることもなく、機械的に上限額を設定し、甲第1号証にあるような請求額にもかかわらず、公費限度額以内というだけで本条例に定める「ポスター作成費のみの公費負担」であるかどうかをチェックしないまま公金を支払った。本件担当職員の怠慢は看過できない。平成19年より特に選挙公営費についてはその過大請求等がマスコミで取りざたされてきた。上限額の見直しをする自治体や、不当利得分の返金をする議員らが報道されている(甲第9号証)。特に3月31日付中日夕刊には「上限額いっぱいに請求して、余った金で(選挙公営対象外の)リーフレットやはがきの印刷代に充ててくれ」といわれたと業者が打ち明けていることを載せている。本件担当職員は問題意識を持って職務を果たすべきだ。ところが実情を調べることもなく、選挙用ポスター作成のみの費用かなどのチェックもせずに、漫然と公金を支払った本件支払担当職員は地方財政法第4条1項(地方公共団体の経費は、その目的を達成するための、必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。)に違反している。
2、 請求人が平成20年2月4日付で提出した住民監査請求では、愛知県監査委員は下記のような見解を述べている。
「燃料代の公費負担において、選挙運動用自動車への燃料の供給が明確に確認できないことや誤った請求があったとして9名の候補者にかかる燃料代の全額、または一部の返還がなされたことなどから、県民に対して少なからず不正な請求があったと疑念を抱かせることになったことは否定できない」
「各候補者の訂正理由が、誤って選挙用自動車以外の自動車の燃料代の請求に入れてしまったためというものが多かったことから県選管の説明が不十分であったものではないかと推測される」(甲第6号証)以上から選挙用ポスター作成費の公費負担についても説明が不十分で選挙用ハガキやリーフレットなど選挙用ポスター以外の代金を入れた誤った請求がされていることは、同じ選管が行なったことから十分に考えられる。印刷業者は選挙ポスター作成費用のみを愛知県に請求できるのであって、その他の選挙用印刷物(リーフレット、ハガキ等)は候補者個人に請求するものである。
3、 平成19年4月執行の愛知県議選において豊橋市選挙区で立候補したI氏のポスター作成を担当した業者(有)Rは、豊橋市選挙区選挙用ポスター作成費の上限額1,115,380円に対して、その99.9%にあたる1,114,352円を受け取っている。I氏は平成15年と11年執行の豊橋市議選に立候補しています。平成15年執行時では557,745円を、また平成11年度では553,472円を選挙用ポスター作成費として公費負担請求している(甲第10号証)。本条例はポスター枚数がポスター掲示場数の2倍分を請求できるとされているが、ポスター作成費は撮影、デザイン、製版等の基礎コストが大きく100枚でも1000枚でも基礎コストは同じで後は紙代と印刷通し工賃が加算されるだけです。したがって豊橋市のポスター掲示場数514の2倍の1028枚が公費負担されるとしても、豊橋市議選のときと紙質・デザイン等同じようなポスターで作成費の50万円が100万円になるようなことはありえない。当該業者が本条例に違反して、不当利得しているのは明らかだ。同じ選挙区のK県議は22万円で作成している。I氏のポスターを作成した業者は、100万円を超えて作成費がかかったとするならその説明を愛知県は住民にするべきだ。
4、3のI氏と同様のことは甲第1号証にあげた他の候補者のポスター作成業者にも当てはまる。
第5 結び
以上1,2、3、4より愛知県が、選挙用ポスター作成費のみに支払われる本件条例に違反し、違法・不当に公金を支払ったことは明らかだ。少なくとも県の担当職員はポスター作成の実勢価格を知っているはずであり、また知っていなければならない。それならば甲第1号証にあげる請求額は不当でありという特段の疑念を抱かしめて当然のはずだ。にもかかわらず、単に上限額以下であることだけをチェックし、漫然と愛知県民の税金を支払った本件担当職員の職務怠慢は問われるべきであり、その損失の補填を求めようとしない愛知県は財産管理を怠っている。実情を調べることもなく、漫然と公金を支払った本件支払担当職員は地方財政法第4条1項(地方公共団体の経費は、その目的を達成するための、必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。)に違反している。また、過大請求した印刷業者は、不当利得しているのだからその分を愛知県に返還すべきである。
以上の理由から本件住民監査請求及び住民訴訟は適法な請求である。
本件住民監査請求及び住民訴訟は、単に実際かかった作成費より高く請求して許せない、という話ではない。これから議員になって、行政の無駄遣いをチェックしようとする人が、最初の一歩から税金を不正に受け取るということである。そのような議員に行政のチェックができるとは考えられない。年金、談合、裏金問題等々あらゆる政官の不祥事は議会の機能不全から来ている。議会制民主主義の根幹を揺るがす問題である。
行政に提出する契約書に嘘を書いても通る、ということがあってはならない。嘘の金額に対して住民の税金がやすやすと支払われるというような、こんなことが法治国家において許されてはならないのである。
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