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       豊橋市民病院公金支出差止請求住民訴訟事件

訴   状

 

       名古屋地方裁判所 御中

請求の趣旨

1、 被告は、株式会社山下設計中部支社に対し、平成26年5月30日に同社との間で締結した「豊橋市民病院放射線治療施設等整備に伴う基本設計及び実施設計業務(以下「本件委託業務」という。)に関する契約に基づき、公金の支出をしてはならない。

2、訴訟費用は被告らの負担とする。

  との判決を求める。 

請求の原因

 

1 当事者について

1、原告は、愛知県豊橋市に居住する住民である。

2、被告は、豊橋市長佐原光一(以下、「被告」という)であり、豊橋市の公金の支出、契約の締結又は債務その他の義務の負担などの行為につき権限を有するものである。

 

第2 住民監査請求前置と本件提訴について 

原告は、平成26424日に豊橋市監査委員に対し、地方自治法242条1項に基づき、本件委託業務に関する支出は、違法であるので支出された公金を返還するように豊橋市長に勧告することを求める住民監査請求を行なったが、同監査委員は、本件委託業務の入札は違法または不当なものと認めることはできない、として平成26年5月28日付けでこれを棄却した。(甲第1号証)

原告はこの監査結果には全く納得できないので、提訴する。

豊橋市は平成2585日を開札日として本件委託業務の入札を行った。本件委託業務には失格判断基準が導入され5社が参加し2社が辞退した。入札結果は表(1)の通りであった。

表(1)

商号又は名称

入札価格

結果

株式会社山下設計 中部支社

71,800,000

落札

株式会社綜企画設計 名古屋支店

37,500,000

失格(開札後)

株式会社大建設計 名古屋事務所

60,150,000

失格(開札後)

株式会社久米設計 名古屋支社

62,800,000

失格(開札後)

株式会社日建設計 名古屋オフィス

74,500,000

参加

株式会社内藤建築事務所 名古屋事務所

 

辞退(電子入札)

株式会社吉野設計研究所

 

辞退(電子入札)























  ※表(1)について

・豊橋市市民病院管理課入札結果(甲第2号証)から請求人が表にまとめた。

 

 本件委託業務は、失格判断基準を導入しない一般競争入札で行われるべきであったが、被告が違法に導入した失格判断基準によって、豊橋住民は不当な損失を被ることになるので、提訴する。

原告の調査によれば、本件委託業務入札で一番低い額で入札しながら失格となった株式会社綜企画設計名古屋支店は、病院の設計業務を全国的に手掛けており、本件委託業務入札制度(失格判断基準設定)についても精通している会社であった(事実証明資料1)。その会社の積算によれば予定価格は6,000万円であり、失格判断基準をクリアする63%価格の37,500,000円で提示した、と株式会社綜企画設計名古屋支店の入札価格積算担当者から聞いた。被告側設定の予定価格は実勢価格を反映していないのではないか、という疑念も持った。本件委託業務が適正に行われたかについて納得できないので提訴する。

違法性について第3で述べる。

 

第3、本件委託業務入札の違法性について

⑴地方自治法施行令第167条の101項、2項に違反する。

①競争入札を行った場合、予定価格の範囲内で最低の価格で入札をした者と契約することが、会計法及び地方自治法の原則となっている(最低価格自動落札)(事実証明資料2)。しかし、例外として地方自治法施行令第167条の10(一般競争入札において最低価格の入札者以外の者を落札者とすることができる場合)として次のように定めている。

第167条の10  普通地方公共団体の長は、一般競争入札により工事又は製造その他についての請負の契約を締結しようとする場合において、予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもつて申込みをした者の当該申込みに係る価格によつてはその者により当該契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認めるとき、又はその者と契約を締結することが公正な取引の秩序を乱すこととなるおそれがあつて著しく不適当であると認めるときは、その者を落札者とせず、予定価格の制限の範囲内の価格をもつて申込みをした他の者のうち、最低の価格をもつて申込みをした者を落札者とすることができる。

 普通地方公共団体の長は、一般競争入札により工事又は製造その他についての請負の契約を締結しようとする場合において、当該契約の内容に適合した履行を確保するため特に必要があると認めるときは、あらかじめ最低制限価格を設けて、予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもつて申込みをした者を落札者とせず、予定価格の制限の範囲内の価格で最低制限価格以上の価格をもつて申込みをした者のうち最低の価格をもつて申込みをした者を落札者とすることができる。(事実証明資料3)

   しかし被告は、上記の傍線部分に定める事実のないままに失格判断基準を導入し、最低の価格をもって申込みをした株式会社綜企画名古屋支店を失格排除して、綜企画よりも3,430万円高い入札をした株式会社山下設計中部支社を落札者とした。

② 上記傍線部分に定める事実のないことは、これまで豊橋市の工事に伴う委託業務に関して行われた低入札価格調査では問題は1つもないことから明らかである。野田処理場施設再構築送水管渠等基本設計業務では予定価格56,750,000円に対して落札率26.0%にあたる14,800,000円で落札されているが、低入札価格調査の調査書では「履行がされない恐れがあるとは認められなかった」とする総合評価であった(甲第3号証)。実際に業務は履行されている。他3件も同様の事例がある。

③以上①、②より本件委託業務入札は、地方自治法施行令第167条の10に違反する入札であることは明らかである。被告の裁量のみで導入された制度で行われた入札である。

 

⑵「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律第3条」に違反する。

①公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律第3条は(公共工事の入札及び契約の適正化の基本となるべき事項)として

第3条  公共工事の入札及び契約については、次に掲げるところにより、その適正化が図られなければならない。

 入札及び契約の過程並びに契約の内容の透明性が確保されること。

 入札に参加しようとし、又は契約の相手方になろうとする者の間の公正な競争が促進されること。

と定めている。(事実証明資料4)

②さて、豊橋市は失格判断基準を導入した。当該制度は予定価格から一定割合を下回った場合、低入札価格調査を行わず自動失格にする制度である。したがって役所が設定した失格判断基準価格を1円下回っても失格になる不当な制度である。競争原理が働かず企業努力による安価高品質の申し込みをした業者が受注を得ることができなくなる制度である。また当該制度によって落札価格が高額になり、歳出が増えることから住民にとっては負担増になる。したがってこのような公益性のない制度を導入するに当たっては住民サイドに立った慎重な検討と住民への説明が求められる。ところが豊橋市は「低入札価格調査制度の実効性を高めるため」を理由にのべるだけで平成256月1日から委託業務にも当該制度を導入した(甲第4号証)。

③遡って豊橋市が委託業務入札に失格判断基準を導入するに至る経緯を、入札制度検討会議議事録(甲第5号証)を、原告が公文書開示請求を行い調べてみると次のことが分かった。

ア、工事に伴う委託業務における一般競争入札の拡大について、コンサルの場合は、内容によって業者の得意分野と苦手分野があることを執行機関は理解していた。つまり、被告は業者間で公正な競争をすれば競争力のある業者が受注していくことを認識している。(平成22年1227日 入札制度検討会議録より)

イ、工事に伴う委託業務における入札案件は一般競争入札とした。(平成23222日 入札制度検討会議録より)

ウ、「ところが一般競争入札にしたら、低入札が相次いだ。」という理由で最低制限価格制度(失格判断基準)を導入した。導入に関し堀内豊橋副市長は疑念を呈したが、低入札対策は品質確保を目的とする、という意見に押し切られた(平成24227日 入札制度検討会議録より)。

 

③ 失格判断基準導入前の委託業務入札結果(甲第3号証)によれば、これまで豊橋市の委託業務に関して行われた低入札価格調査では問題は1つもない。⑵,③ウでいう、あたかも低入札により品質の確保ができていないような意見は根拠のない意見である。ところが、被告は本件業務委託入札に失格判断基準を導入し、公正な競争もさせないまま、さらに低入札調査もせずに株式会社綜企画設計名古屋支店を失格とした。住民にとっては実に不透明な契約である。これは「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律第3条1項及び2項に違反する。また、地方自治法施行令第167条の10の1項、2項に違反する。

 

⑶ 地方自治法第214項及び地方財政法第4条第1項に違反する。

①地方自治法第214項は「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と定めている。また、地方財政法第4条第1項は「その目的を達成するための必要且つ最少の限度を超えて、これを支出してはならない。」と定めている。

本件委託業務は失格判断基準を設けてはならない一般競争入札であるべきであった。ところが被告は、違法に失格判断基準を導入し、最低価格の入札者であった株式会社綜企画設計名古屋支店を失格排除し、高額な落札額71,800,000円とする株式会社山下設計中部支社と契約した。そのことによって豊橋市住民は、本来ならば株式会社綜企画設計名古屋支店となり落札額は37,500,000円となるところ、3,430万円を不当に負担させられることになった。

 

第4 本件委託業務への支出が行なわれる相当の確実性

本件委託業務の契約が締結されたことから、相当の確実性をもって支出が予測される。

 

 

第5 結論

 上記の通りであるから、原告は、被告に対し、地方自治法第242条の2第1項1号に基づき本件工事への支出差止を求めるもので
 ある。

証拠方法

 

甲第1号証: 住民監査請求について(通知)

甲第2号証:本件委託業務入札結果

甲第3号証: 失格判断基準導入(平成25年6月1日)前の入札結果

甲第4号証:建設工事等における入札制度における主な改正 点等について

甲第5号証:議事録(入札制度検討会議)

 

事実証明資料1:株式会社綜企画設計会社案内/会社概要http://www.soukikaku.co.jp/profile/company/index.html 

事実証明資料2:低入札価格調査制度及び最低制限価格制度の概要(国土交通省ホームページより)

 

事実証明資料3:地方自治法施行令条文

事実証明資料4:公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律条文

 

 

                      添付書類

 

   訴状副本      1通

   甲号証写し     各1通